大学職員、イギリスで学ぶ。

30代主夫のUCL留学体験記

秋学期の授業の内容

コロナの変異種も見つかってしまい、ロンドンでは例年とは全く違ったクリスマスの雰囲気。

とは言え、自分はあまり外には出たがらない性格なもので、本を読んだり、テレビを見たり、例年とあまり変わらないクリスマスを過ごしておりましたが、日本の皆さんはお変わりありませんでしょうか。

 

さて、今回は、私が9月からUCLで受けてきた秋学期の授業であるComparative Education: Theories and Methods(比較教育学:理論と実践)の内容を紹介していきたいと思います。

 

(1)授業の概要

 

この授業は、比較教育学コースの学生の必須科目となっている授業で、世界各国の様々な教育に関する事象(詳細は後述)を取り上げながら、比較教育学の理論や研究の方法論について学ぶというものです。

ご興味のある方は、以下のモジュール・カタログの内容をご一読ください。

 

www.ucl.ac.uk

 

ちなみにこのモジュール・カタログは、全てのUCLの授業の内容をキーワード検索できる優れもので、各コースのWebサイトには書いていない情報(開講時期や評価方法など)も載っています。

自分はこのカタログの存在を入学前には知らず、モジュールの内容を調べるのに大変苦労した覚えがあるので、ぜひこのブログを読んでくださっている(数少ない?)読者の皆様、特にUCLへの進学を検討されている方には、ぜひご活用いただけると嬉しいです。

 

(2)各回の授業のトピックについて

 

授業は全10回で、主に専門の異なる4名の教授が、交代で授業を担当していました。

各回のトピックは以下の通りです。

 

①Comparative education and comparative social science – an overview of the field

②Three Case-oriented Qualitative Comparative Methods (CHA, MSSD, MDSD)

③Qualitative Comparative Analysis

④Quantitative comparative research

⑤The Comparative Debate on the Origins of Education Systems

⑥Comparative Historical Analysis of the Development of Comprehensive Education in Europe

⑦An ethnographic approach to educational comparison – Tobin’s Preschool in Three Cultures project

⑧Qualitative comparison in practice: comparative research on classrooms and pedagogy

⑨The use of international tests and surveys in comparative research and educational policy

⑩Doing Comparison in the Age of Globalisation

 

トピックからも少し推測できるところもあるかと思いますが、前半の授業ではqualitative method(質的研究法)やquantitative method(量的研究法)といった方法論の内容について学び、後半の授業ではそれらの知見を基にしてより個別具体的な事象(国による単線・複線型の教育の違い、幼児教育の多様性、PISA等の国際学力調査etc.)について考えを深めるといったものでした。

方法論については、量的研究法よりも質的研究法について力点が置かれていた印象が強く、ジョン・スチュワート・ミル(世界史の授業で出てきましたね)の一致法(method of agreement)、差異法(method of difference)や、レイガンの質的比較分析(qualitative comparative analysis: QCA)といった理論を中心的に学びました。

そして、最後の授業では、「グローバル化による文化・経済の一体化が進む世界で、比較教育学は有効な学問でありうるのか?」という、かなり哲学的なトピックについて考えさせられることになりました。

 

(3)授業の進行について

 

授業は週一回、2時間の前半がレクチャー、後半がディスカッションになることが多かったです。そして、毎週の授業の次の日に、1時間のセミナーが開かれ、前日の授業の内容に関するディスカッションや別の講師による補習授業が行われます(こちらのセミナーは参加が必須ではなく、希望者のみの参加となっていましたが、毎回ほぼ全員の学生が出席していました)。

 

日本の大学の多くがそうであるように、授業は全てオンライン(Zoom)で行われました。

授業の質自体は、対面でもオンラインでもそう変わらないかと思いますが、難しかったのは、他の学生と関係を築くこと。

実際に大学に集まって話をしていれば、隣に座っている学生の人となりもなんとなく分かるし、「この後一杯どう?」みたいな飲みニケーションにも発展しやすいかと思いますが、オンライン上ではなかなかそういった話もしづらく、自分がようやく他の学生と打ち解けてきたのは学期も終盤に差し掛かる頃でした。。

他の学生と早めに関係を作っておけば、ディスカッションで意見を言う時にも積極的になりやすいかと思うので、これから留学される皆さんには、ぜひ様々なツール(SNS等)を用いて他の学生と交流する機会を持つことをオススメします(僕も頑張ります…)。

 

(4)授業の評価方法について

 

これは単純明快で、期末レポート(5,000words)一発です。

12月の中旬までにA4一枚くらいのessay outlineを書き、1月下旬までにdraft(2,000 words)、最終稿を2月下旬に提出します。

さらっと言いましたが、自分にとってはこの長さの英文を書くのは初めての経験なので、かなり焦っております(と言いつつも、クリスマス期間は思いっきりだらけた生活をしておりましたが…)。

 

面白いのは、5,000wordsという字数は決まっていても、トピックの選択にはかなり自由裁量が認められていることです。

エッセイのお題は以下の3つで、その中から学生は好きなものを選択して良いことになっています。

 

①A comparison of methods of comparative inquiry

②A critical review of a comparative theory

③A research paper to investigate a question or issue in Comparative Education.

 

①のお題は、授業内で触れた方法論(質的・量的)の長所や短所を比較考量した上で、それらの方法論がどのような対象を研究する時に効果的であるかについて考えを述べる、というもの。

具体的な例としては、「ヨーロッパにおける教師教育の内容の違いの要因を説明するには、質的・量的調査のどちらが適しているか?」といったものが挙げられます。

このお題のポイントは、必ず複数の方法論の内容について言及し、それらの比較を行うことが求められるということです。

 

②のお題は、①と同じく方法論の内容に関するものなのですが、こちらでは必ずしも複数の方法論の内容について言及する必要はなく、ある特定の方法論の有効性を批判的に検証することが求められます。

具体的な例としては、「レイガンのQCAは、1960年代の単線型学校制度の出現の要因を明らかにするのに有効な方法か?」というものです。

 

一方③のお題は、方法論自体についての考察を行うのではなく、授業内で学んだ方法論を実際に用いてリサーチを行い、教育に関する何らかの事象の要因について明らかにすることにトライするというものです。

私が書こうと思っているのはこの③のお題についてで、アジアの高等教育における学生移動(student mobility)の傾向と要因について明らかにするために、日本・韓国・タイの2000年代以降の政治・経済的な変化に焦点を当ててリサーチをしようと考えています。

またエッセイが完成したら、内容について少し詳しく紹介したいと思います。

 

おわりに

 

今回は、今月に終わったばかりの秋学期の授業の内容について、忘れないうちに紹介しておきたいと思い記事を書かせていただきました。

次回は、また趣向を少し変えて、自分が大学院に出願したときの準備について記事にしたいと思います。

 

らー